

うずまきパンにはひとつだけ難点がある。ロールケーキ状なので、巻きの中心近くだとクリームはパンの両側面についている。端から手でちぎって食べると、手がクリームでベタベタになってしまう。これさえなければなあ、と思っていたら、食べやすくする裏ワザ情報を得た。「お箸で食べる」というものだ。「うずまきパン発祥の地」に伝わる食べ方なのだという。なるほど、手で食べないとは盲点だ。試してみたが、確かに手もべたつかず食べやすい。軽くブルジョアな気分にもなれる(私だけか)。それからというもの、コンビニでうずまきパンを買うときは、必ずお箸をつけるようにしてもらっていた。うずまきパン、そして「お箸方式」の発祥の地とされるのは、沖縄本島から南におよそ300キロ離れた小さな島、伊良部島である。1960年代中頃、島の製パンメーカー『まるそうパン』で生産が始まったそうだ。関係者に話を聞いた。同社では「うずまきサンド」という名前で、3人の職人が小さな工場で作っているという。島に20軒ほどある小売店から注文を受けて焼き、―度に5〜10個ほどを出す。それが全部売れたら再び注文を受け、また焼くという完全な受注生産方式を取っているそうだ。伊良部だけで出まわっていた限定品だったのが、「幻のパン」の噂は島を飛び出し、海を越えた。本島の大手業者も作るようになり、県内全土に広まっていった。伊良部町役場の仲間明典参事は、伊良部のうずまきサンドのおいしさに比べると、本島のものは話にならないと断言する。「伊良部のおいしい水を使っているから、クリームの甘さや脂肪分と、パンのバランスがいいんです。島で生まれ育った小麦色の肌の女の子が、黒い瞳でにっこり笑う。そんな素朴さがありますね」。この瞬間、私はうずまきサンドを「菓子パン界の南沙織」と呼ぶことに決めた。古いたとえで恐縮だが。伊良部でこんなに愛されている商品である。やはりお箸で食べるなど、食べ方にもいろいろ工夫がなされているわけだ。ほかになにか食べ方のアイデアはないものかと『まるそうパン』の関係者に、まずはこう切り出した。「伊良部では、うずまきサンドをお箸で食べているそうですね」。一瞬の沈黙の後、関係者は大爆笑した。「なんでお箸で食べるか? 聞いたことないよ」。えっ! 聞いたことないの? あわてて仲間参事にも尋ねてみたが、「そんなバカな」と一蹴された。「畑仕事の人が3時のおやつなんかに食べるから、お箸だと面倒でしょう」。いろいろ調べてみたが、島の人みんながそうしているのではなく、箸を使う、使わないは人それぞれだそうだ。私がいつも食べている、大手メーカーのうずまきパンは、うずが2〜3周巻かれているのに対し、本家「うずまきサンド」は「の」の字程度。両側面にクリームが塗られている部分が小さいので、手で食べてもそんなにべたつくことはないのだろう。伊良部ではみんな、お箸で食べているという話は、沖縄の都市伝説だった。コンビニでうずまきパンを買って「お箸付けてください」といっていた自分が、ちょっと恥ずかしい。でも食べやすいのは確かなので、これからはお箸が付いてくる商品も一緒に買うことにしよう。気がつけば、昔はうずまきパンにオバアが強制する夕食がついてきて、今じゃお箸ほしさに買った商品がついてくる。もう大人だし、食べ過ぎてこれ以上大きくなると困るなあ。そう思いながら、今日もジャリジャリと甘いうずまきパンをお箸で食べている。沖縄旅行のときは、思う存分楽しんでもらいたい。
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残念ながら、日本では「かけ流し」の天然温泉を味わえるところが減ってきている。とくに新しくできた温泉施設では、その傾向が強い。しかしこれは、新しい施設に限ったことでなく、古くから親しまれてきた有名温泉地でもしばしば見られることである。私は以前、栃木県内の有名温泉地で、温泉旅館の管理人として長年働いていたお年寄りから、「泉量の減少を補うために、水道水を沸かして使っている」という話を聞いたことがある。そこで、その温泉地のなかでもとりわけ有名な高級旅館に行き、長年、客室係をしている女性に話を聞いたところ、お年寄りから聞いた話が事実だとわかった。他の旅館やホテルでも同じようなことをしている、とのことだった。実際、昔から知られている温泉地のなかでも、源泉が枯渇して減少しているため、タンクローリーで温泉を何キロも離れたところから運んできたり、湧出井戸(源泉を汲みあげる井戸)を変えたために泉質が変わっていたり、循環方式に移行している温泉も増えている。そのような有名温泉地では、高度経済成長期からバブル期にかけて、新しい旅館やホテルの建設ラッシュが起こった。ひとつの温泉地に旅館やホテル、保養所などが増えれば、当然ながら、一軒あたりが使える源泉量は減る。その不足分を補うために、水道水を加えたり、循環方式にしたりすることも多い。したがって、いまでは有名温泉イコール本物の温泉かどうかはわからないのだ。もちろん、有名温泉地のなかには、循環方式を取り入れず、かたくなに温泉の質を守り続けているところも少なくない。能本県の「黒川温泉」や秋田県の「乳頭温泉郷」、山形県の「蔵王温泉」、福島県の「吾妻高湯温泉」、群馬県の「谷川温泉」、京都府の「夕日ヶ浦温泉」なども温泉本来の味わいである「かけ流し」方式を貫いている。そんな温泉には、時代の波に負けずに、ぜひとも頑張ってほしいと心から思う。そのためにも、利用者が「本物の温泉」をきちんと見極め、「サポーター」となることが大切であろう。
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